<「もののけ姫」感想文>





 28 April 2014

 「もののけ姫」感想文

「もののけ姫」は公開当時、東京の映画館で観たあと、あ
まりの衝撃(特に後半の激しい展開)にその日はもちろん、
その後、一週間ほど、頭がもののけ姫モードのまま、しか
し、どんなに考えても「ヒトと自然」という壮大なテーマ
に整理がつかないまま、それでも一ヵ月後には日常の忙し
さにだんだんとその強烈な印象も薄らいでいった。

 先日、バリ島で数年ぶりに「もののけ姫」を観た。あら
すじはほぼ頭に入っていたからストーリー展開におどろき
はない。しかし、映画館では見落としていた、もしくは聴
けてなかったセリフなど、つまりディテイル(詳細)につ
いては、まさに初めて氣づいた点も多く、宮崎駿の心にく
い演出にうなるばかりだった。

 冒頭のおおばば様のセリフは心に染み入った。

「誰にも定めは変えられない。だが、ただ待つか、自ら赴
くかは決められる」

 ガンにも似た「あざ」をたたり神と化した「いのしし」
に矢を射ったことからもらってしまったアシタカに言った
ことばだ。

 少年、アシタカは映画の中で二度、問う。「人間と森の
共存は可能か?」と。だが、山犬からも笑われてしまう。
そんなもの可能なわけがない、と。おまえ人間だろ?いま
までに人間がどれだけ、森と動物を殺してきたか知らない
のか、というわけだ。

「人間と森の共存は可能か?」

 この問いに映画は答えない。宮崎駿さんは答えない。だ
いたい彼自身、回答をもっていないのだろう。(日本の里
山の暮らしからヒントをもらったパーマカルチャーはいい
線をいっているけど、人口爆発問題はさすがに解決できな
いだろう)

 鉄を川砂の中から取り出すには火力が必要だ。火力は、
当時は(映画の中でも)森の木を切って、得ていた。(現
代の鉄生産はもっと大規模だ。鉄分の含まれる岩石を重機
によって採掘し、木ではなく、石炭か石油によって火力を
得て、鉄を生産していく。他の金属に関しても同じような
工程を辿る)

 人間は農耕文明、すなわち「お米文化」をつくったとき
から人口が増え始めた。田んぼをつくったということは森
を削ったということに他ならない。(ひどいことをしたも
んだと思う)栄養分が村人に行き渡り、ヒトは繁殖に成功
した。

 次に鉄を手に入れた。その方法は上に述べた通り。

 その後、クルマ文明が始まって、石油の使用量も激増し、
それでも足りず、人間は原子力にまで手を出した。(ちな
みにクルマ生産にも石油と原子力を使っています)

 話を映画に戻そう。

 鉄を加工すれば、鉄砲も弾(たま)もつくれる。いのし
し駆除に役立つし、人間同士の戦争にも勝てるだろう。し
かし、武器・兵器の進歩・競争はいくところまで行ってし
まった。そして現代には核兵器がある。

「もののけ姫」は、そもそも人間は「鉄の生産」を始めた
時点で終わっている、ということを明らかにしてくれた、
そういう映画だ。

 なのに、さらに、現在人口爆発してしまった人類。なん
と68億人もいる。経済を回すために、森林伐採も石油採
掘も原発産業も兵器産業もなにもかも止まる気配がない。
止められるわけがないじゃん。お父さんは給料がほしいし、
奥さんも給料がないと困るそうな。

 象やオランウータンやチンパンジーがあと50年以内に
絶滅することがわかっている。なのに人間だけが生き残れ
るわけがない。そもそもこれだけ母なる海を汚して「環境
」が保たれるわけがない。

 なので、坂本龍一も言っているように「人類は絶滅する
」のだろうけど、ぼくは、その「滅び方」にこだわりたい
と考えている。

 どうしたって、めちゃめちゃな「終わり方」にはなるだ
ろうけど、その日がくるまで、個人の欲望を際限なくもっ
たままいくのか、その自己中心的な考え方を悔い改めるの
か、は大きな違いだろう。

 いま「その日がくるまで」と書いたが、よくある終末映
画みたいに「ババーン!」と最期がくるのではなく、意外
にゆっくりじわじわっとくる地域もあるので(都市部以外
は)そういう意味で、心の平穏や平安をもち続ける(普段
から)という生き方をいまから選んでおくことが大切なの
ではないか、と提案したい。(バリ島のバンジャールは素
敵だ)

 文中に書いた通り、宮崎駿さんはこの映画の中でなんら
解答を示さない。もう取り返しがつかないかもしれないと
いう地点まできているからなのだろう。それぞれ各自が自
分の頭で考え、判断し、行動するしかないのだろう。答え
がないのが答え。

 ただぼくには、この「もののけ姫」は、にんげん、ずっ
と(今日も)森林伐採しているけど(一秒間にテニスコー
ト5面分)、おカネのためだって言うけれど、せめてその
スピードをスロー・ダウンすることを、少しだけ立ち止ま
って考えることはできませんか?と問いかけてくれたよう
に感じられるし、ありがたいし、感謝も自然にできる、そ
んな映画として脳の記憶の中に大切に刻まれている。
Top Page




inserted by FC2 system