<「借りぐらしのアリエッティ」感想文>





 1 May 2014

 「借りぐらしのアリエッティ」感想文

 先日「借りぐらしのアリエッティ」を観た。小人(こび
と)を題材にした物語や映画は昔から多い。その「ありふ
れた題材」を宮崎駿がどんなふうに料理するのか、そこに
興味があった。

 映画の雰囲気を決める冒頭の挿入歌からして、いままで
の宮崎駿の映画の中でももっとも可愛らしい。高級車をお
ばあちゃんが運転し、しょうくん(中学生?の男の子の主
人公)を乗せて走るシーンから、暮らしやすそうな半分田
舎町の平和な感じが否応もなく伝わってくる。

 宮崎駿は彼の著書(対談集)の中でこんなことを言って
いる。にんげんの命も小さな動物の命もその価値は同じだ、
と。ぼくは「蚊」は殺すが(デング熱がこわいので)それ
以外の小動物はなるべく殺さないようにしているので、総
論もちろん賛成。

 前半はこびとたち(三人家族)の可愛らしい暮らしを(
登山の知恵を活かしながら生きるお父さんの男らしい世界
を交えながら)描いている。

 小動物はいいもんだと思った。だって、ローリエの葉っ
ぱ一枚で、何回もスープの味がよくなるし、クッキーもほ
んの少しだけ食べれば満腹になるんだから、自然環境から
の収奪もにんげんほど大きくなく、すなわち省エネ。(に
んげんは地球上の中で、大型動物の代表選手だからネ)

 こびとたちの生活を見ていたらふと「ていねいな暮らし
」ということばが浮かんできた。きめ細やかな、ていねい
な、手抜きのない暮らし方をこびとたちはしている。観客
の誰もが愛おしく感じるだろう。

 こわれやすい、もしくはこわれてしまいそうな、そっと
しておいてあげたい、そういった感情も湧き起こってくる。

 しかし、ただでは終わらないのが宮崎駿の映画。にんげ
んの手荒い、がさつな、身勝手な、小動物(こびと)への
力加減なんてちっとも想像もできない、そういったにんげ
ん誰しも持っている残忍性が唐突にアニメーションとして
描かれる。

 もしかしたらにんげんの残忍性はにんげん誰しもが持っ
ている欲望からくるのかもしれない。

 心臓が弱い子供の主人公しょうくんと、屋敷のお手伝い
さんであるはるさん。その二人のこびとに対する応対・扱
い方は、まさに、にんげんって、こんなに違うものなの!
?と、おどろきのあまりイスから後ろにのけぞって倒れて
しまいそうだった。

 唐突な不快感。こんなにんげんヤだねーー。ひどいこと
するなぁ。。など、みなそれぞれいろんな思いが湧き起こ
ってくるだろう。しかし、ふと我に返ってみれば、もしか
してこの残忍性の5%くらいはぼくの中にもあるかも、と
いう仮定が頭に浮かんで、反省することしきり。

 象牙のために象を殺したり(アフリカ象だけでも年間二
万頭!)戦争でヒトがヒトを殺してきた。にんげんは平気
で残酷なことをする動物だ。ましてや野ねずみくらいの大
きさの小動物の取り扱いなんて残忍そのもの。ほんま謙虚
さのかけらもない。

 宮崎駿は映画の中で、しょうくんの「小動物へ寄せる愛
」とはるさんの「小動物を軽く扱う残忍性」のふたつを見
事に対比して見せてくれる。対比しつつ類似点も見せてく
れるのは見事!としか言いようがない。(心優しいしょう
くんだって、こんなものだヨ、と。だからみんなもきっと)

 映画は最後まで「可愛らしさ」を失わずに展開していく
のだが、その「可愛らしさ」はこびとたちのものであって、
決して、その「可愛らしさ」がにんげんたちがもつ「残忍
性」をオブラートでくるんでくれるものではない。

 監督はこの脚本を書きながらこう思ったのかもしれない。
可愛い映画だったね、と笑顔で映画館を出てきても結構。
けど、中には「可愛い映画だったけど、人間の残忍性につ
いて考えさせられたね」と言ってくれる観客もいるかもし
れない、と。

 こびとはみなさんの周りにはいないかもしれないが、子
犬やうさぎやリスなどともし出会ったら、可愛がったらい
いと思う。さらにもっと小さな虫、微生物、さらにさらに
バクテリアなど、目には見えないけれど、町や森の環境を
整えよう、維持しようと日々がんばってくれている。感謝。

 ここ数百年で虫や微生物やバクテリアは数万種も絶滅し
てしまった。減ったのではない。種が絶滅したのだ。にん
げんが森林伐採し、街を発展させ、そしてにんげんが68
億人にまで増えたからに他ならない。(映画のセリフの中
では67億人だった。いいセリフだったヨ、しょうくん)

 だから、もう少し「謙虚さ」をもって、暮らしていかな
ければならない、と思う。

 最後にひとつ、この感想文を明るいトーンで終わってみ
たい。

 それはしょうくんとアリエッティの問題解決能力の高さ。
この二人のコンビネーションに拍手を惜しみなく贈りたい。

 まだこの映画を観てないヒトもいると思うのでこれ以上
詳しく書かないが、もっとも印象に残ったのは、はるさん
の一瞬の視線を読み取ったしょうくん!ぼくもあのシーン
は、はっとした。

 それからアリエッティにも拍手。彼女のお父さんからた
った一度しか習っていない高度な技術を、ちゃーんと実践
の場で使いこなしていたこと。美しいからだの動き。

 音声による会話がなくても!テンポ良く展開していくコ
ミュニケーションと相互のファンタスティックな協力関係。
(損得勘定なんてない!二人がある一点へ向かっていくの
だ)こういうシーンを見ると、あぁ、生きるっていいな、
素敵だな、と思う。
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