<家電を例にとって環境問題を考える>

last update 26.December.2004


<働けば楽になるって本当?>

 中学二年生の頃だったか。どうも大人たちがめざしているのは、より
楽な生活のようだ、と思ったことがある。洗濯機があれば手洗いしなく
ても洗濯できるのだし、クルマがあれば歩かなくともアクセルをふんで
さえいれば遠くへ行ける。どうやらこれらを文明の進歩といい、進歩す
ることは人間にとって望ましいことである、ということも学校で習った
ような氣がする。だってボクら中学生が英語や数学や歴史をこうして毎
日勉強しているのは人間の進歩のためだろうと思ったから。

 無口の父親はじめ大人たちから受け取ったメッセージは「大人はね、
より楽な生活を求めて働いているんだよ」というものだった。

 しかし大人たちの働きぶりは決して楽なものには見えなかった。毎日
朝6時半には家を出て、夜11時過ぎに帰宅する。小学生の頃は早寝だっ
たから父親と顔を合わせるのは週一回、日曜日だけなんてことも多かっ
た。

 これは矛盾ではないだろうか、と子供心に思ったものだ。人間は楽な
生活を実現するために働くのだ、ということらしいのだが、その働きぶ
りは楽ではない、ということ。いや、会社の仕事がたいへんなのは今だ
けで数年後には楽になる目処が立っているというのならまだしも、どう
もそういうことではないらしいということもわかってきた。楽な生活を
実現するためと言いながら会社の仕事が楽になる見込みがないのだとし
たら、その人の人生は楽なものにはなりえず「たいへんだった人生」と
して終わってしまうのではないか、と考えていた。

<安く買えればラッキー!だけど・・>

 洗濯機も冷蔵庫もテレビも日立、東芝、三菱電機、松下電器、シャー
プ、サンヨーと、たくさんのメーカーによって商品化されていることも
わかってきた。各社年々少しでも機能や性能やデザインをよくし価格を
下げる努力をしている。価格競争は健全でありわるいことではないと思
っていた。ビデオデッキが市場に出はじめた頃20万円していたが、そ
れが2万円で買えるようになったとき、安くなったもんだなぁ、と感慨
にふけりながら購入したものである。

 しかし半導体商社に入社し、さらに世の中のことが見えてきた頃、商
品価格についてわかったことがある。なんと少しも儲からない商品があ
るというのだ。それまではどんな商品も実際に消費者の手に渡れば必ず
メーカーにはわずかでも利益がもたらされると思っていた。しかし「逆
ざや」といって売れば売るほど赤字になる商品もあるというのだ。実際、
成熟商品にこういうことが起きている。単に在庫処分したいだけという
こともあるようだ。

 ほかに逆ざやまではいかなくとも戦略的価格というのもある。これは
利益はほとんど出ないがいち早くその市場のシェアを取りたいがために、
競合メーカーがちょっとマネできないような安い価格づけを行うという
ものである。この価格戦略が成功すればその市場(たとえばPCやビデ
オカメラなど)で、そのメーカー製品がデファクトスタンダードとなり、
多くの消費者の思考回路に「PC買うならどこどこネ」という具合に半
自動的に組み込まれるためメーカーにとって至極都合がいい。

<互いにたたき合っている構図>

 これらのことからわかったことは「各メーカーは過当競争している」
ということだった。そんなことは当たり前だと言われてしまいそうだが、
実際各メーカーの現場(社員)の努力はたいへんなものだ。少しでも性
能を上げ、新機能を付加し、コストを下げる。組織間の連携もうまくと
らなければならない。そのための残業。OL経験のない奥様方にはちょ
っと想像できないような過酷な世界である。

 勤労は世の中ではよいことだという。勤労勤勉は善である、と。もち
ろん否定しない。しかしすべての労働が善だろうか。

 たとえば他社がちょっとマネできないようなコンパクトで液晶画面が
大きく見やすい、さらにコストを20%下げることに成功したビデオカ
メラを発表したとしよう。それが目論見通り半年間売れ続けヒット商品
になったとしよう。この事実は他社の企画部門、開発部門そして営業部
門に大打撃を与える。なぜ先を越されてしまったのか、企画・開発部門
は責任を問われるのと同時に、さらにその商品を上回る性能・機能およ
びコストダウンを要求される。営業部門では今や見劣りする自社商品を
売らねばならない状況となり、またしても逆ざやでたたき売る。

 このように企業はよくいえば健全な競争をしていると言えるのだろう
が、わるくいえば互いにたたき合っている、もしくは互いに首を締め合
っているとも言える。

<たたき合っているのはメーカーだけじゃない>

 次に販売会社について書いてみよう。販売会社(商社)は販売力、す
なわち営業力が命である。販売会社Aの営業マンと販売会社Bの営業マ
ンは全く同じ商品を売るために努力する。

 話した感じがよかったり、フォローがきちんとしていたり、プレゼン
テーションにいやみがなかったり・・商品を買う側から見ればどの販売
会社から購入しても商品は同じなのだから、営業マンがしっかりしてい
て価格もリーズナブルなところから買う。

 ここでまたしても歴然とした差が出てくる。すなわち売れる営業と売
れない営業の差だ。売れる営業は給料も上がり昇格もし高笑いだが、売
れない営業はやがて解雇されるかもしれない。ここにもたたき合いの構
図が見える。

 このたたき合いの構図は通信業界、広告業界、保険・証券・銀行とい
った金融業界など、およそ考えられるあらゆるところで見ることができ
る。サラリーマンとは悲しい生き物で、延々とたたき合うのが仕事なの
だ。B社の営業がかわいそうだ、今回の売り込みについては手を引こう
などと少しでも容赦しようものならたちまち大逆転されてしまうだろう。

 容赦無用。競合企業を徹底的にたたき続ける。その結果、敵の営業部
が廃部になろうが、会社ごと倒産しようが知ったことではない。一家の
大黒柱がクビになり、その家庭が路頭に迷おうが知らぬ存ぜぬ。他人の
心配よりも自分が解雇されぬよう、自分の会社の売上が上がるようがん
ばらなければならない。

 しかしいったいこんなことでいいのだろうか。たしかに洗濯機や冷蔵
庫やクルマのおかげで生活は便利になったように見える。しかし企業同
士の競争はますます激化している・・

 休日にクルマにのってどこかへドライブするのは楽しいが(渋滞にま
き込まれたりもするが)週五日間、身も心も削るような過酷な仕事を続
けることによってようやく得られるクルマであり、家電製品なのであれ
ば、極端な話、会社には通わず田舎で米と野菜をつくって暮らすのもい
いかもしれない。(ここでいつものように田舎暮らし論にはいかない)

 料理をするのにガスは便利なので捨て難い。ガス台なんて思いっきり
成熟商品である。もう進歩する余地がない。いや掃除機も洗濯機もそれ
にクルマだって成熟商品だろう。なのに各メーカーは懸命に付加価値を
つけ巧妙なCMを流し、まだ使えるものを買い換えさせようとやっきだ。
それは新商品を発表し続けない限り企業は存続できず、給料を支払うこ
ともできないからだ。

<魅力のある商品もある>

 さてここまでだいぶ会社・企業を否定的に書いてきたが、逆の視点か
らも書いておこうと思う。たとえばほとんど成熟商品に見られていた冷
蔵庫は最近ノンフロンとなり、かつ7年前に比べ約85%の省電力化に
成功している。こういったエコ商品の開発および商品化の企業努力はほ
められるべき事柄だろう。

 パソコンはどうか。ひと昔前の 800MHz, 256MB のマシンでも XP は
快適だ。音声・動画も問題ない。500MHz, 256MB のマシンでも XP は
まぁ快適。すると最近の 4GHz のマシンは不要に思える。(たとえば 
2400 dpi でスキャンした静止画の画像処理など速いが、これはデザイ
ナーの領域だろう)新品の Desktop PC 本体もいまや5万円で買えると
ころからもパソコンもそろそろ成熟商品と言えそうだ。(IBM も PC 事
業を中国・聯想集団(Lenovo)に売却することになったことだし)おっと
またトーン・ダウンしてしまった。

 最近、わくわくさせてくれる商品はデジカメだ。しかし最近の 500 
万画素クラスのデジカメには、撮像素子(CCD)1/1.8 inch(6.9 x 5.2 
mm)が搭載されていることが多いようだ。(当初は 2/3 inch(8.8 x 6.
6 mm))これでは1画素あたりで受け取れる光の量が減ってしまう。さら
にレンズの明るさも F2.8 - 4.8 のように比較的暗いレンズが搭載され
ており、いくら解像度を上げても撮影時によい光がない場合、汚い画像
になってしまう。たとえ 200 万画素であっても F2.0 - 2.8 のように
明るいレンズが搭載されているカメラの方が 500 万画素クラスよりも
きれいに撮れることもある。メーカーの 500 万画素といううたい文句
に踊らされないよう注意が必要だ。

 デジカメは楽しい。何枚失敗しても構わないし、トリミング、明るさ
補正(ガンマ補正)もできるし、web サイトにそのまま掲載することも
できる。この手軽さは従来では考えられなかったことだ。

<古い製品を大事に長く使いたいもの>

 このように今風の商品に囲まれ、それらの使い方、楽しみ方を知って
いる私に、いまの会社・企業を批判する権利はないだろうか。そんなこ
とはないと思う。

 パソコンは CPU の性能(GHz)と HDD の容量(GB)で売ろうとし、デジ
カメは画素数で巧みに売ろうとしている。ユーザーに買い替えをそくし、
いま使っているものを時代遅れと思わせる。新製品を買う場合、旧製品
をオークションに出品してくれればまだいいが、あっさり捨ててしまう
ことも多いようだ。

 ゴミ問題・エネルギー問題は深刻だ。一個の製品をつくるには電気や
石油など多大なエネルギーが投入されており、リサイクルするにもまた
エネルギーが使われることを忘れてはならない。これからは少しでもエ
ネルギーを使わず、ゴミを出さないという、すなわち古いものを大事に
できる限り長く使い続けることが求められる時代だ。

 しかし一方、企業は商品を開発・発表し続けなければ売上・利益は上
がらない。サラリーマンにしても利益を出さない限り給料は出ない。つ
まりエネルギーを使い、環境を破壊し、ゴミを増やしていかない限り、
給料はもらえないという矛盾をかかえている。いや、メーカーだけでな
い。エネルギー産業も金融業も兵器産業もすべてが結びついて環境を破
壊し続けている。

<環境破壊をすれば子供たちの未来はない>

 私にできることはなんだろう?大きく環境を破壊するような会社で働
かない。穀物菜食(自然食)を愛し少しずつ広める。洗剤を使わないで
皿を洗う。合成洗剤でなく主に重曹でできた洗剤で洗濯する。石けんと
化粧品は合成界面活性剤が含まれていないものを使う。シャンプーとリ
ンスも合成のものを避ける。

 毎日石けんで体を洗わない。毎日洗髪しない。歯は塩で磨く。(もし
くは塩も使わないで磨く)夏、エアコンを使わない。できるだけ省エネ
電球を使う。古いものを大事に使う。(パソコンは9年目のものを含め
6台とも現役。CDプレーヤーはなんと19年目)このサイトの運営。
Greenpeace Japan のサポーターの継続。自転車を使う。冬は歩く。夏
も歩く。ピアノ・ウクレレ・ジャンベの演奏。読書と hiking を愛す。

 すべてを敵にしない。過ぎたるは及ばざるが如し。(相手の全面否定
は自分の目を盲目にする)すべてのものは相対的であることを知る。緩
急自在。

 この歳になってわかったこと。大人たちは別段楽な生活をめざしてい
るわけではなかった。むしろ競争するのが好きなのではないか。より優
れた商品を発表し、それがヒット商品になったらうれしい。いや、もっ
とストレートにあいつより金持ちになったら、いや誰よりも金持ちにな
ったらうれしいという氣持ちをうちに秘めて動いているのではないか。

 しかしそろそろ氣づいてほしい。決しておカネでは幸せは買えないこ
と。多くのおカネを稼ごうと思えば互いに首を締め合うしかないこと、
環境破壊するしかないこと。環境破壊すれば子供たちの、いや人類の未
来はないということを。

       2004. 12. 12 ふじかわ おさむ  at 南荻窪



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